歌謡亭日乗

或る音楽ライターの仕事と日常

日向敏文『東京ラブストーリー』

 たまたまテレビで『東京ラブストーリー』を観ました。
 やっぱり鈴木保奈美さん演じる赤名リカは変わり者だよなぁとか、初めて観る世代には、リカのキャラクター以外にも驚くようなアイテムがいろいろあるだろうななどと思い、同時にメイクやファッションだけでなく、映像の質感やドラマの中の空気感にも懐かしさのようなものと野暮ったさを覚えて、それが今よりももっと居心地のよいものに感じられたのでした。
 浮ついた時代だったけれど、世の中にはデジタルよりアナログの感覚が強く、もっとデコボコ、ザラザラして、いびつだった気がします。それはつまり、現代よりも人間らしかったということかも知れません。今ほどいろいろな場面に人工的な修正が入り込んでいなかったし。
 さて、ドラマを観ていて、物語以上に心に残ったのは、日向敏文さんによる音楽でした。クラシックっぽかったり、映画音楽のようであったりしながら、聴き手のイマジネーションを豊かに刺激する彼の作品ですが、ドラマのサウンド・トラックという性格のためでしょう、『東京ラブ・ストーリー』は彼のアルバムの中でも一番親しみやすい内容になっていると思います。センチメンタルを主としたいろいろな感情や、それらに彩られたシーンをそのまま音楽にしたような曲は、どれもが美しくて、ドラマが懐かしさを感じさせたのとは違って、いつ聴いても変わらない感動を運んでくれます。

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 ちなみに一番好きなアルバムは最初にリリースされた『サラの犯罪』。1曲目の「サラズ・クライム」を初めて聴いた時の衝撃は今も忘れませんし、この曲が様々な感動を与えてくれる、大切な作品であることはこれからも変わらないと思います。
 日向敏文という人が素晴らしい才能や感性の持ち主であることは間違いありませんが、2009年を最後に新しい作品は発表されておらず、近況もわかりません。その新作が聴けることを待ちたいと思います。