歌謡亭日乗

或る音楽ライターの仕事と日常

『演歌の乱』ほか、最近の歌番組に思う

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 昨夜、『林修のニッポンドリル』(フジテレビ)で「実は知らなかった麗しの昭和歌謡曲ドリル」というテーマが取り上げられていました。

 先月下旬から『演歌の乱』(TBSテレビ)、『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』(テレビ東京)と、昭和をよく知る世代に喜ばれそうな番組が多く放映されています。

 若年層のテレビ離れが進んで、主な視聴者が高齢層になっていることが、大きな理由でしょうが、『演歌の乱』では、米津玄師、MISIAなど幅広い世代に人気のアーティストの曲を取り上げていて、若い人の間でも話題になっていました。

 昭和歌謡を題材にした番組では、オリジナル歌手の映像を流しながら、そこに当時の資料映像などを交え、コメンテーターの感想やうんちくを添えるというのがありがちな構成ですが、『演歌の乱』は、そうした懐かしさが売りの番組とは違って、最近の曲も取り上げて、演歌歌手と呼ばれる人たちの歌唱力の高さをわかりやすく示したのが人気の理由だったと思います。

 主に演歌をうたう歌手の中には、ポップスを歌う時にも余計なコブシが入って演歌臭くなるという弱点を抱える人もいますが、当日の細川たかし藤あや子をはじめとする顔ぶれにはそれがなく、徳永ゆうきさんが若干の危うさを窺わせたものの、それも個性や特徴に換えて好評を集めていました(徳永さんは米津さんの「Lemon」を歌いました)。

 これは、橋幸夫さんのような大御所から徳永さんのような若手まで幅を持たせつつツボを押さえた人選をした制作スタッフの手腕によるもので、大いに評価されてよいと思います。

 これで「演歌」「演歌歌手」が改めて注目されるようになればと思いますが、それは、この分野が「改めて注目」してほしい現状にあるからで、これを打開するためにも『演歌の乱』のような番組作りは有効だと思います(同じような内容を続けたらすぐに飽きられるでしょうが)。

 この番組の魅力は、“演歌”歌手がJ-POPを見事に歌い切ったことにありますが、最年長の橋さんにしてもベンチャーズビートルズが流れる時代に青春期を過ごした人、ロックやポップスに馴染みがあるのは当たり前のことで、橋さん自身「恋のメキシカンロック」のような全く演歌調ではない作品もヒットさせています。

“演歌”歌手の多くが、どんなジャンルの歌も見事に歌い切ったことを理由に美空ひばりさんを目標に掲げ、自身のステージではオリジナルの他にJ-POPの名曲を披露するなどしており、『演歌の乱』のように歌えるのは当然と言えば当然のこと。
 しかし、世間には“演歌”歌手は今どきのリズムには乗れないだろうといった偏見があって、言ってみればそれを逆手にとって成功したのが『演歌の乱』と言えます。
 偏見は、’80年代のカラオケ・ブーム以降、主な購買層である高齢者に向けて、古いタイプの楽曲を発売し続けてきた“演歌”業界が生み出してしまったもので、その中で活躍の可能性をそがれた歌手も少なくありません。

 そんな中にあって近年、特に頼もしさを感じさせるのが五木ひろしさん。
『演歌の乱』と同じ週に放映されたフジテレビの『ミュージックフェア』でも、水樹奈々さん、きゃりーぱみゅぱみゅさん、安田レイさんと共演して、昭和40年代にアン・ルイスさんが歌った「グッド・バイ・マイ・ラブ」、菅原洋一さんがヒットさせた「知りたくないの」、自らの新曲「VIVA・LA・VIDA! ~生きてるっていいね!~ 」を披露しました。

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 五木さんが“演歌”の枠に入れられることが多いながらも自由度の高いリリースを続けてこられた背景に、安定した人気と豊かな実績を誇り、2002年に自らファイブズ・エンタテインメントというレコード会社を興したという環境的な要因があります。
 2012年に人気を集めた「夜明けのブルース」は、全く演歌的な作品ではなく、その新鮮な感触がファンやカラオケ愛好家に歓迎されたことが好セールスに結びついたものでした。そして、そんな新鮮さは「VIVA・LA・VIDA! ~生きてるっていいね!~ 」にも感じられます。

 クリフ・リチャードジェームズ・ブラウンは高齢になっても、若いスタッフと作品づくりをして新たな時代のヒット曲を生みましたが、日本の“演歌”歌手にはなぜそういう展開ができないのだろう?と不満を覚えてきましたが、五木さんはそんな不満とは無縁のところで、軽やかに歌手活動を続けています。

 そして“演歌”の分野には、ひばりさんや五木さんのように、ジャンルの枠に囚われずに活動できる、豊かな実力と可能性を備えた歌手が沢山います。
 平成に替わる新たな時代に、五木さんや『演歌の乱』に出演した方たちの活躍によって、古臭いイメージを払拭した新しい歌の時代に訪れてほしいものです。