歌謡亭日乗

或る音楽ライターの仕事と日常

「忘れ傘」を歌う花見桜こうきさんに期待

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 10月20日に東京・北とぴあドームホールで『幸の恩返し’18~満天の演奏会~』を開くダウトの幸樹さん。
 翌日には原宿ラフォーレミュージアムで『-幸樹生誕祭- 超!幸の恩返し’18』を開催し、28日には台北で開催の『JAPAN VISUAL CULTURE FESTIVAL!! D=OUT CHARITY ONE MAN LIVE 「 加油!台灣!」』に出演、11月6日からは『ダウトvs GOTCHAROCKA vs xxx presents. 「仏の顔も四つまで」』で名古屋・大阪・仙台・東京を回るなど、年内は12月27日の『幸樹fes:忘年会だよ全員集合!』(東京 池袋EDGE)まで、とにかく忙しくスケジュールをこなしていますが、ビジュアル系ロック・バンドのボーカルとは別の、もう一つの顔が、演歌・歌謡曲をうたうソロ・シンガー、花見桜こうき。
 9月5日に2ndシングル「忘れ傘」をリリースして、こちらのプロモーションにも多忙な毎日を送っています。

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 ビジュアル系ロック・バンドのメンバーでありながら、演歌・歌謡曲の歌手というと最上川 司さん(THE MICRO HEAD 4N'Sのドラマー・TSUKASAとしても活動中)を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、花見桜さんは最上川さんと二人で『最上桜劇場』と題した公演も行っている注目の異色歌手です。

 ロック系のアーティストには、その音楽の性質上、過激な人物像をイメージする方も多いでしょうが、最上川さん同様に花見桜さんもとても真面目な人。葛藤や模索を重ねながら、自分の好きな歌の道を歩んでいます。

「ソロー・デビューした頃は、自分から演歌・歌謡曲の方へ寄せていっているところがあったんですけど、この3年半の間に、メッキはどうせ剥がれてしまうから、それはやめようって決めたんです。
 自分が本当に思っていることじゃないと、リスナーには届かないし。ダウトでも古い曲はやりたくないって思うんですけど、それは何年も前の自分と今は変わっていて、昔の歌に書かれてることは、今と同じじゃないからなんです」

 ファンに、そして自分と真摯に向き合うあまり、辛くなってしまうこともあるのでは?などと余計な心配もしたくなりますが、
「誰かに似ているって言われた時点でアーティストとして終わりだし、花見桜こうきと言えば…というものがないと埋もれてしまうと思っているので、賛否の否も寄せられることを怖がらずに攻めていきたいですね」と話すように、自らに厳しい姿勢を貫いています。

 2015年に「アイラブ東京」でソロ・デビューした頃は、慣れない演歌・歌謡曲の世界で手探りしながらの活動だったようですが、3年を経て状況がつかめ、考え方も変わってきた様子。バンド活動とソロの違いについて訊いてみると、
「以前はありましたけど、なくしました。ジャンルで分けると可能性を狭めると思ったので。ビジュアル系ロックをやりながら、演歌・歌謡曲をうたうのは珍しいと言われますけど、僕にとっては特殊なことじゃないんで、ジャンルじゃなくて作品で評価してほしいと思ってます」という答え。より自分らしい表現に近付けているようです。

「ロック」という言葉から想像される音楽は、人によって様々でしょうが、ダウトのロックには日本的な要素が多く、自ら楽曲を作り、ボーカルとして活動する幸樹さんが、花見桜こうきとして歌い始めたことにも納得できる、演歌・歌謡曲との共通性を感じさせます。

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 花見桜さんの音楽体験を訊いてみました。

「小さい時は、母親がカラオケ好きだったので、その影響で演歌や歌謡曲を聴いていて、自分自身では、小学生の時だったんですけど、長渕剛さんを最初にいいなと思って、ギターを弾くようになって、その後はミスチルLUNA SEA椎名林檎さんって感じですね」

 演歌・歌謡曲に関心を抱くようになったのは、音楽活動を続ける中での積極的な情報収集によるもののようで、
「ミュージシャンとして、過去や現在に流行っているものを知らないというのはちょっと違うなと思うので、演歌・歌謡曲についてもオムニバスのCDをいろいろ聴いたんです。コードの使い方とか言葉の選び方とか、とても勉強になりました」と話しますが、このあたりにも花見桜さんの真面目さが感じられる気がします。

 オフにはいろいろな音楽に触れて刺激を受け感性を養っているようですが、歌謡曲について訊ねると、次のような答え。
「『秋桜』『渡良瀬橋』『カローラⅡに乗って』『トイレの神様』…、いろいろ聴いていると、詞に感銘を受けたり、シンプルな構成の中にも広がりや奥行きを感じられたりして、音楽の可能性を感じますよね。そして、作り表現する人間の一人として、自分でもワクワクしてきます。
 最近はチャランポランタンが好きなんですけど、ミュージカルにも通じるような豊かな表現が素晴らしいと思います。
 そういう音楽に触れて影響を受ける中で、例えば、以前はリズムとかピッチをとても気にしていたんですけど、今は、曲を流して歌詞を、歌うのではなくて読むだけでも伝わるものがあれば、それが理想じゃないかなんて考えるようになって、自分が表現することについてとても楽な気持ちで向き合えるようになったんです」

 受けた刺激や重ねた経験の中で得たものが、今の花見桜さんの表現を生んでいるわけですが、愛した人が忘れていった傘をモチーフに追憶を歌う「忘れ傘」に、従来の演歌・歌謡曲のイメージを超える"らしさ"が感じられる点に、アーティストとしての順調な成長ぶりを窺うことができます。

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花見桜こうき「忘れ傘」(通常盤)


 ソロ活動を始めて以降はショッピングモールなど、それまでに出演したことのない場所で歌うことも多くなったそうですが、そこで感じること、知ることが、さらにその成長に拍車をかけます。
「ショッピングモールなどで歌っていると、僕を知らない方にも足を止めていただけるので、演歌・歌謡曲ではカバーが大事だということを実感します(2015年にはアルバム『花見便り~俺の女唄名曲集~』をリリース、『時の流れに身をまかせ』『お久しぶりね』『夜桜お七』などを花見桜流に歌っています)。そして、いずれはカバーされるような曲を作るのが使命だという気持ちを持つようになってきました」

 頼もしい発言に、これからへの期待がさらに高まる花見桜こうきさん。その意欲と情熱で国境もジャンルも飛び越えた音楽活動を展開してほしいものです。
 

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