歌謡亭日乗

或る音楽ライターの仕事と日常

「会津追分」で飛躍する森山愛子さんへの期待

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  先日の「紅白」出場決定の報せを以て、純烈は確実にスターへの階段を昇り始めたと言えるでしょう。
 昨日のブログで、「紅白」出場までに8年を要したと書きましたが、いわゆるブレイクまでにどれくらい掛かるかは人それぞれと言うしかなく、そこには何か法則がありそうでいて、実は運次第というのが現実だと思います。
 氷川きよしさんのように、演歌が売れない時代にデビューしながら、その年に初出場してしまったシンデレラ・ボーイとでも呼ぶべき存在もあれば、デビューから「紅白」まで23年かかった、天童よしみさん、市川由紀乃さんの例もあります。

 例えば歌手の売り出し方は、初めて扱う食材を、どんな方法や味付けが最適であるかを探りながら調理するようなもので、参考例はあっても正解は新たに見つけるしかないので大変です。

 森山愛子さんは2004年にプロ歌手活動を開始。当初から高い歌唱力で注目されていましたが、なかなか期待に応えうる実績を上げられずにいました。
 森山さん本人は演歌が好きで、歌の師匠である作曲家の水森英夫さんも演歌で大成してほしいと願っていましたが、なかなか最高の料理に仕上げる方法が見つかりません。
 和食から韓国料理、洋食へと料理の幅を拡げるように、近年は歌の幅を拡げ模索していましたが、デビューから14年、年齢も三十路を過ぎて大人の心情を無理なく表現できるようになった昨年9月に発売されたのが、和食中の和食と言える「会津追分」でした。
 タイトルからわかるように会津を舞台にした、いわゆるご当地ソングで、この手の歌のほとんどと同様に、失恋してひとり、傷心を抱えて旅する女性の心情を歌っています。
 形式としては新しいとか珍しいとかいった点は全くありません。
 しかし、先の料理の例えを使えば、熟成加減や調理法、味付けが見事に食材に合っています。
 そしてそれはさらに、以前に口にしたことがあるはずの料理なのに、今までに食べたことがないような味わいだったのです。

 抜群の歌唱力を持ちながら、森山さんに唯一足りないと思っていた艶がこの歌には感じられ、それが説得力や共感を呼ぶ材料につながったのでしょう。発売年である2017年度上半期のDAM演歌カラオケランキングでは18位という高位を記録しています。
 1位が「津軽海峡・冬景色」、2位が「天城越え」で、3位が「酒よ」であるように、これは過去の作品もすべて含めたランキングで、昨年以降に発売された曲に限れば、大月みやこさんの「流氷の宿」に次ぐ2位ですので大変な躍進と言えます。
 CDの売り上げデータを見ても、過去最高を記録しており、いよいよその真価を世に問う時がやってきたと思えるのです。

 以前から、屈託がなく思いやりのあるとてもいい人ですが、屈託のなさが、人生の陰影や機微を表現する時には弱点だったのかも知れません。それが年齢を重ねて、晴れも雨も知り、日向だけでなく日陰をわかったことで「会津追分」が生まれたように思います。
 そうだとすれば、次作への期待は増すばかり。そして、それに応えるだけの歌唱力は備えていた人ですから、これからの活躍を楽しみにするばかりです。

 

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純烈、“紅白”出場の夢を叶える

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 不自然とも言える暖かさが続いていましたが、今日は冬らしく空気の冷たい一日でした。いよいよ今年も終わりに近付いているのを感じますが、すでにNHK紅白歌合戦の出場者も発表になっているのですから当たり前と言えば当たり前の気がします。
 
 初出場のDAOKOさん、あいみょんさんも楽しみですが、やはり初出場で注目したいのは純烈の皆さん。2010年のデビュー以降「夢は紅白!親孝行!」のスローガンのもとに活動してきましたが、8年で夢を叶えてしまったのですから大したものです。

 

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純烈(前列左から後上翔太白川裕二郎友井雄亮、後列左から小田井涼平酒井一圭 


 ご存じの方も多いでしょうが、彼らは5人中4人が、戦隊ヒーローものドラマに出演していた経験を持つ元俳優で、現在の活躍の場である歌謡曲の世界とはほとんど縁のないメンバーばかりで活動を始めました。
 
 しかし、当初から中高年を対象に、歌謡曲を歌うという方針は固まっていて、その上で“紅白”出場を目指すことも、冗談ではない本気の目標として設定されていました。
 
 とは言え、歌謡界における強力な後ろ盾があるわけでもなく、まさに手探りで目標を目指す日々。彼らのホームグランドとなった健康ランドに出演するようになったのも、想うような活動ができない中で、歌える場を求めて行き着いた結果であり、知名度の高くない歌手の主な活動の場であることから、周囲からは「出演するのは控えた方がいい」という助言を受けたこともあったとか。
 
 それでも、その場を去ることなく、浴客を相手に歌い続けたのは、リーダーの酒井一圭さんが立てた戦略のため。歌謡曲を愛する中高年とふれ合いながら、自分たちの存在を知ってもらい、ファンを増やすのに、それは最適な場だったのです。
 
 そして、いつしか純烈が出演する健康ランドには、入浴よりも彼らを観ることが目的の人々が多く集まるようになりました。
 
 2015年にはCS歌謡ポップスチャンネル発の演歌男子。ブームに乗って、さらに人気を拡大させ、単独でのホール・コンサートでは個々のキャラを明確に打ち出しつつ、グループとしての存在感を大きなものにしてきました。
 
 メインでステージを務める力を持ち、多彩な魅力を披露しつつ、笑いのセンスも発揮できる、かつてのクレージーキャッツドリフターズのような存在にもなり得る5人は、昨年あたりからメディアで取り上げられることも増えて、いよいよ頭角を現してきたことを実感させていましたが、ついに今年、決定的な評価を得るに至ったのです。
 
“紅白”でも披露されるであろう最新曲の「プロポーズ」は、メンバーの一人である小田井涼平さんが、昨年LiLiCoさんと結婚していたことから、二人のイメージに重ねられることが多かったのですが、実際は、純烈から“紅白”へのプロポーズだったわけです。

 念願を叶えたことは実に喜ばしいことですが、5人の面白さを知るには“紅白”の出演時間では短すぎます。興味を持った方には、ぜひ、コンサート会場や、ショーの開かれる健康ランドに足を運んでいただきたいと思います。

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 さて、今年の“紅白”、演歌・歌謡曲の出場者は、昨年より一人少なくなりました。
 ともに2年続けて出場していた市川由紀乃さんと福田こうへいさんが外れました。
 10月下旬までのCD売り上げを見ると、氷川きよしさん、山内惠介さん、純烈の皆さんに次いで福田さんは4位、5位の水森かおりさんに続く6位が市川さんです。“紅白”の選考基準は「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」を加味したものということで、先の2つに関しては市川さん、福田さんともに不足はないはず。となると、2人が外れることとなった「番組の企画・演出」がどんなものなのかとても気になりますが、これは3つの材料の中で最も曖昧で、恐らく万人が納得できるようなものではないと思います。ある時期から“紅白”にうっすらと灰色が混ざっていることは国民の多くが感じているところであり、取り敢えず一年を締めくくる最大級の歌謡番組という位置付けにはあるものの、絶対的な存在というわけではありません。観るも観ないも個々の勝手ですから、不満を募らせることにはあまり意味がありません。
 
 NHKとしては、若い層にきちんと受信料を納めてもらうためにも人選に頭を悩ませているようですが、まだまだ中高年も大事にすべきですから、演歌・歌謡曲枠を削るなら、1時間増やして前半を若者向け、後半を中高年向けにするとか、30日に若者向け、大晦日に中高年向けというように2日に分けて行うとかの番組作りを考えてもいいんではないかと思うのですが…。

「忘れ傘」を歌う花見桜こうきさんに期待

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 10月20日に東京・北とぴあドームホールで『幸の恩返し’18~満天の演奏会~』を開くダウトの幸樹さん。
 翌日には原宿ラフォーレミュージアムで『-幸樹生誕祭- 超!幸の恩返し’18』を開催し、28日には台北で開催の『JAPAN VISUAL CULTURE FESTIVAL!! D=OUT CHARITY ONE MAN LIVE 「 加油!台灣!」』に出演、11月6日からは『ダウトvs GOTCHAROCKA vs xxx presents. 「仏の顔も四つまで」』で名古屋・大阪・仙台・東京を回るなど、年内は12月27日の『幸樹fes:忘年会だよ全員集合!』(東京 池袋EDGE)まで、とにかく忙しくスケジュールをこなしていますが、ビジュアル系ロック・バンドのボーカルとは別の、もう一つの顔が、演歌・歌謡曲をうたうソロ・シンガー、花見桜こうき。
 9月5日に2ndシングル「忘れ傘」をリリースして、こちらのプロモーションにも多忙な毎日を送っています。

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 ビジュアル系ロック・バンドのメンバーでありながら、演歌・歌謡曲の歌手というと最上川 司さん(THE MICRO HEAD 4N'Sのドラマー・TSUKASAとしても活動中)を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、花見桜さんは最上川さんと二人で『最上桜劇場』と題した公演も行っている注目の異色歌手です。

 ロック系のアーティストには、その音楽の性質上、過激な人物像をイメージする方も多いでしょうが、最上川さん同様に花見桜さんもとても真面目な人。葛藤や模索を重ねながら、自分の好きな歌の道を歩んでいます。

「ソロー・デビューした頃は、自分から演歌・歌謡曲の方へ寄せていっているところがあったんですけど、この3年半の間に、メッキはどうせ剥がれてしまうから、それはやめようって決めたんです。
 自分が本当に思っていることじゃないと、リスナーには届かないし。ダウトでも古い曲はやりたくないって思うんですけど、それは何年も前の自分と今は変わっていて、昔の歌に書かれてることは、今と同じじゃないからなんです」

 ファンに、そして自分と真摯に向き合うあまり、辛くなってしまうこともあるのでは?などと余計な心配もしたくなりますが、
「誰かに似ているって言われた時点でアーティストとして終わりだし、花見桜こうきと言えば…というものがないと埋もれてしまうと思っているので、賛否の否も寄せられることを怖がらずに攻めていきたいですね」と話すように、自らに厳しい姿勢を貫いています。

 2015年に「アイラブ東京」でソロ・デビューした頃は、慣れない演歌・歌謡曲の世界で手探りしながらの活動だったようですが、3年を経て状況がつかめ、考え方も変わってきた様子。バンド活動とソロの違いについて訊いてみると、
「以前はありましたけど、なくしました。ジャンルで分けると可能性を狭めると思ったので。ビジュアル系ロックをやりながら、演歌・歌謡曲をうたうのは珍しいと言われますけど、僕にとっては特殊なことじゃないんで、ジャンルじゃなくて作品で評価してほしいと思ってます」という答え。より自分らしい表現に近付けているようです。

「ロック」という言葉から想像される音楽は、人によって様々でしょうが、ダウトのロックには日本的な要素が多く、自ら楽曲を作り、ボーカルとして活動する幸樹さんが、花見桜こうきとして歌い始めたことにも納得できる、演歌・歌謡曲との共通性を感じさせます。

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 花見桜さんの音楽体験を訊いてみました。

「小さい時は、母親がカラオケ好きだったので、その影響で演歌や歌謡曲を聴いていて、自分自身では、小学生の時だったんですけど、長渕剛さんを最初にいいなと思って、ギターを弾くようになって、その後はミスチルLUNA SEA椎名林檎さんって感じですね」

 演歌・歌謡曲に関心を抱くようになったのは、音楽活動を続ける中での積極的な情報収集によるもののようで、
「ミュージシャンとして、過去や現在に流行っているものを知らないというのはちょっと違うなと思うので、演歌・歌謡曲についてもオムニバスのCDをいろいろ聴いたんです。コードの使い方とか言葉の選び方とか、とても勉強になりました」と話しますが、このあたりにも花見桜さんの真面目さが感じられる気がします。

 オフにはいろいろな音楽に触れて刺激を受け感性を養っているようですが、歌謡曲について訊ねると、次のような答え。
「『秋桜』『渡良瀬橋』『カローラⅡに乗って』『トイレの神様』…、いろいろ聴いていると、詞に感銘を受けたり、シンプルな構成の中にも広がりや奥行きを感じられたりして、音楽の可能性を感じますよね。そして、作り表現する人間の一人として、自分でもワクワクしてきます。
 最近はチャランポランタンが好きなんですけど、ミュージカルにも通じるような豊かな表現が素晴らしいと思います。
 そういう音楽に触れて影響を受ける中で、例えば、以前はリズムとかピッチをとても気にしていたんですけど、今は、曲を流して歌詞を、歌うのではなくて読むだけでも伝わるものがあれば、それが理想じゃないかなんて考えるようになって、自分が表現することについてとても楽な気持ちで向き合えるようになったんです」

 受けた刺激や重ねた経験の中で得たものが、今の花見桜さんの表現を生んでいるわけですが、愛した人が忘れていった傘をモチーフに追憶を歌う「忘れ傘」に、従来の演歌・歌謡曲のイメージを超える"らしさ"が感じられる点に、アーティストとしての順調な成長ぶりを窺うことができます。

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花見桜こうき「忘れ傘」(通常盤)


 ソロ活動を始めて以降はショッピングモールなど、それまでに出演したことのない場所で歌うことも多くなったそうですが、そこで感じること、知ることが、さらにその成長に拍車をかけます。
「ショッピングモールなどで歌っていると、僕を知らない方にも足を止めていただけるので、演歌・歌謡曲ではカバーが大事だということを実感します(2015年にはアルバム『花見便り~俺の女唄名曲集~』をリリース、『時の流れに身をまかせ』『お久しぶりね』『夜桜お七』などを花見桜流に歌っています)。そして、いずれはカバーされるような曲を作るのが使命だという気持ちを持つようになってきました」

 頼もしい発言に、これからへの期待がさらに高まる花見桜こうきさん。その意欲と情熱で国境もジャンルも飛び越えた音楽活動を展開してほしいものです。
 

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幸樹【ダウト・花見桜】 (@kouki_d_out) | Twitter

『演歌の乱』ほか、最近の歌番組に思う

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 昨夜、『林修のニッポンドリル』(フジテレビ)で「実は知らなかった麗しの昭和歌謡曲ドリル」というテーマが取り上げられていました。

 先月下旬から『演歌の乱』(TBSテレビ)、『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』(テレビ東京)と、昭和をよく知る世代に喜ばれそうな番組が多く放映されています。

 若年層のテレビ離れが進んで、主な視聴者が高齢層になっていることが、大きな理由でしょうが、『演歌の乱』では、米津玄師、MISIAなど幅広い世代に人気のアーティストの曲を取り上げていて、若い人の間でも話題になっていました。

 昭和歌謡を題材にした番組では、オリジナル歌手の映像を流しながら、そこに当時の資料映像などを交え、コメンテーターの感想やうんちくを添えるというのがありがちな構成ですが、『演歌の乱』は、そうした懐かしさが売りの番組とは違って、最近の曲も取り上げて、演歌歌手と呼ばれる人たちの歌唱力の高さをわかりやすく示したのが人気の理由だったと思います。

 主に演歌をうたう歌手の中には、ポップスを歌う時にも余計なコブシが入って演歌臭くなるという弱点を抱える人もいますが、当日の細川たかし藤あや子をはじめとする顔ぶれにはそれがなく、徳永ゆうきさんが若干の危うさを窺わせたものの、それも個性や特徴に換えて好評を集めていました(徳永さんは米津さんの「Lemon」を歌いました)。

 これは、橋幸夫さんのような大御所から徳永さんのような若手まで幅を持たせつつツボを押さえた人選をした制作スタッフの手腕によるもので、大いに評価されてよいと思います。

 これで「演歌」「演歌歌手」が改めて注目されるようになればと思いますが、それは、この分野が「改めて注目」してほしい現状にあるからで、これを打開するためにも『演歌の乱』のような番組作りは有効だと思います(同じような内容を続けたらすぐに飽きられるでしょうが)。

 この番組の魅力は、“演歌”歌手がJ-POPを見事に歌い切ったことにありますが、最年長の橋さんにしてもベンチャーズビートルズが流れる時代に青春期を過ごした人、ロックやポップスに馴染みがあるのは当たり前のことで、橋さん自身「恋のメキシカンロック」のような全く演歌調ではない作品もヒットさせています。

“演歌”歌手の多くが、どんなジャンルの歌も見事に歌い切ったことを理由に美空ひばりさんを目標に掲げ、自身のステージではオリジナルの他にJ-POPの名曲を披露するなどしており、『演歌の乱』のように歌えるのは当然と言えば当然のこと。
 しかし、世間には“演歌”歌手は今どきのリズムには乗れないだろうといった偏見があって、言ってみればそれを逆手にとって成功したのが『演歌の乱』と言えます。
 偏見は、’80年代のカラオケ・ブーム以降、主な購買層である高齢者に向けて、古いタイプの楽曲を発売し続けてきた“演歌”業界が生み出してしまったもので、その中で活躍の可能性をそがれた歌手も少なくありません。

 そんな中にあって近年、特に頼もしさを感じさせるのが五木ひろしさん。
『演歌の乱』と同じ週に放映されたフジテレビの『ミュージックフェア』でも、水樹奈々さん、きゃりーぱみゅぱみゅさん、安田レイさんと共演して、昭和40年代にアン・ルイスさんが歌った「グッド・バイ・マイ・ラブ」、菅原洋一さんがヒットさせた「知りたくないの」、自らの新曲「VIVA・LA・VIDA! ~生きてるっていいね!~ 」を披露しました。

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 五木さんが“演歌”の枠に入れられることが多いながらも自由度の高いリリースを続けてこられた背景に、安定した人気と豊かな実績を誇り、2002年に自らファイブズ・エンタテインメントというレコード会社を興したという環境的な要因があります。
 2012年に人気を集めた「夜明けのブルース」は、全く演歌的な作品ではなく、その新鮮な感触がファンやカラオケ愛好家に歓迎されたことが好セールスに結びついたものでした。そして、そんな新鮮さは「VIVA・LA・VIDA! ~生きてるっていいね!~ 」にも感じられます。

 クリフ・リチャードジェームズ・ブラウンは高齢になっても、若いスタッフと作品づくりをして新たな時代のヒット曲を生みましたが、日本の“演歌”歌手にはなぜそういう展開ができないのだろう?と不満を覚えてきましたが、五木さんはそんな不満とは無縁のところで、軽やかに歌手活動を続けています。

 そして“演歌”の分野には、ひばりさんや五木さんのように、ジャンルの枠に囚われずに活動できる、豊かな実力と可能性を備えた歌手が沢山います。
 平成に替わる新たな時代に、五木さんや『演歌の乱』に出演した方たちの活躍によって、古臭いイメージを払拭した新しい歌の時代に訪れてほしいものです。

渚ようこさんが急逝

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▲ 2004年発表のアルバム『渚ゆうこ meets 阿久悠 ふるえて眠る子守唄』


 渚ようこさんが9月28日に心不全のため、都内の病院で亡くなりました。
 24日に『クレイジーケンバンドデビュー20周年アニバーサリーライブ』に出演したばかりで、11月30日には恒例となっている『渚ようこリサイタル』を控えた中での急逝でした。

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▲ 11月に予定されていた『渚ようこリサイタル・2018ようこズンドコ歌謡流れ旅』のポスター。独特の濃厚な香りが溢れます


 派手な印象はなかったけれど、その存在感には深いものがあり、まだまだ歌謡界のためにも活躍してほしかった人なので、とても残念です。

 いわゆる文化というものには、主流と傍流があり、両方が存在するからこそ豊かさや拡がり、奥深さというものを加えていくのだと思います。

 1994年に本格的な活動を始めて以降の渚さんは、決して主流になることはありませんでしたが、主流とともに平成の歌謡文化を形成する重要な一アーティストであったことは確かでしょう。

 ライブ・ステージの独特な雰囲気は、ちあきなおみさんが持つ危うさに似た稀有なもので、それを想うとこの度の逝去が大変に惜しまれます。

 朝ではなく夜のような、光ではなく影のような、青空ではなく雨空のような、笑顔ではなく泣き顔のような…、人が隠してしまいがちな感情や表情に敢えて目を向け、そこに人生の機微を見つけては歌うような表現が好きでした。

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▲ こちらは昨年のリサイタルのポスター。渚さんが育んだ文化が凝縮されているのを感じます


 渚さんはこの世を去っても、彼女が創り育んできた文化は継承されていってほしいものだと心から願いつつ、ご冥福をお祈りします。

『演歌道五十年 渥美二郎 Dinner Show ~初めてライブハウスで逢いましょう~』

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 昨日、東京のミュージックレストラン、ラドンナ原宿で開かれた渥美二郎さんの『演歌道五十年 渥美二郎 Dinner Show ~初めてライブハウスで逢いましょう~』を観てきました。

 渥美さんがライブハウスに出演するのはこれが初めて。天気は生憎の雨でしたが、どんな内容になるのか楽しみな気持ちで出掛けました。

 

 開演の約1時間前に着いて、まず食事。ビールを飲みながら、シャルキュトゥリの盛り合わせ、真鯛ポワレ 海藻バターソース、玄米パン、マンゴームースケーキ フランボワーズクーリソースをいただきました。

 

 会場やイベントの性格のためか、浅草公会堂などで見掛けるよりオシャレ度の高いファンが多い印象。

 そんな中、18時になるとピアノ、ドラムス、コーラスなど7名の演奏陣が現れ、メロディーが流れる中、渥美二郎さんが登場して最初の曲が始まりました。

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 アップテンポなポップスで初めて耳にする曲。いきなりの意表をつく展開に、その後への期待がさらに膨らみました。自らもギターを抱え、その腕前も披露した渥美さんのMCにより、それが最近、渥美さん自身が見つけて気に入ったシンガー・ソングライター、岩渕まことさんの「永遠鉄道」という曲であることがわかりました。
 そして、「原宿で歌うので、ちょっとムードのある曲を集めてみました」とのことで、その後にはオリジナルの「哀愁」「霧の港町」が続きます。いわゆる演歌歌手として知られる渥美さんのイメージとは違ったステージになっていて、とても新鮮な印象でした。

 

 ひと口に“演歌歌手”と言っても、個性は様々でとてもひと括りにできるものではありませんが、その特徴とされるコブシを渥美さんは多用せず、また唸ることもありません。特にこのライブの前半に歌われた“ちょっとムードのある曲”を続けて聴くと、渥美さんは演歌と言うよリ、藤山一郎さんに代表されるクルーナー歌手のひとりと言った方が相応しいように思えてきます。

 

「夜霧のしのび逢い」では再びギターを奏でる渥美さんでしたが、その甘い音色はロス・インディオス・タバハラスあたりを思い出させるようなもので、歌だけでなく演奏でもうっとりとした気分にさせてもらいました。

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 誠実な人柄が窺われるトークを交えながら「恋心」「ラブユー東京」「夜霧よ今夜も有難う」などが歌われましたが、何を聴いても感じられるのは清潔感。それは過度な感情表現を抑えることで生まれる、渥美さんの歌の特色と言えますが、抑えていながら却って深く沁み込むように伝わってくるものがあるのは、天性の資質と十代の頃から演歌師として歌い、重ねてきた豊かな経験のためでしょう。

 

 途中、特に印象的だったのは「黒い花びら」。この曲の時だけ、声の出し方が違って感じられたのです。大きさや強さではなく、発し方とでも言うような。
 この作品が、日本作曲家協会古賀政男さんや服部良一さんが、世界に通じる新しい歌を育成することを目的に起ち上げた日本レコード大賞の第1回大賞受賞曲だったことを考えると、その表現の違いには、少年時代の渥美さんが「黒い花びら」に受けた衝撃のようなものが作用しているのでは…?などと思えました。このあたり、機会があったらご本人に訊いてみたいと思います。

 

 後半に入ると「傷だらけの人生」に続き「奥の細道」をはじめとする自身のヒット曲へ移っていきましたが、「傷だらけの人生」と渥美さんの相性の好さは見事なもので、さらに、この歌をヒットさせた鶴田浩二さんもまた人としての清潔さを感じさせる人だったと、お二人に共通するものを見た想いがしました。

 

 渥美さんにとって初めてのライブは最新シングル「涙色のタンゴ」で終わりましたが、渥美さん自身とても楽しめたようで、「親戚で宴会をやっているような、こういう雰囲気もいいですね」と話し、またやってみたいという意志を示されていました。

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  会場には「涙色のタンゴ」を競作しているよしかわちなつさん、叶やよいさんも姿を見せていた中、最後にはアンコールが起きて、渥美さんはやはり来場していた岩渕さんをステージに招き、二人でこの日2度めの「永遠鉄道」。

 実に楽しく、心地よいひと時に、帰り道の雨さえ爽やかに感じられる夜となりました。

◆ 曲 目

永遠鉄道

哀愁

霧の港町

夜霧のしのび逢い

恋心

知りすぎたのね

ラブユー東京

たそがれの銀座

夜霧よ今夜も有難う

粋な別れ

黒い花びら

傷だらけの人生

奥の細道

夢追い酒

忘れてほしい

他人酒

釜山港へ帰れ

涙色のタンゴ

アンコール

永遠鉄道

 

日向敏文『東京ラブストーリー』

 たまたまテレビで『東京ラブストーリー』を観ました。
 やっぱり鈴木保奈美さん演じる赤名リカは変わり者だよなぁとか、初めて観る世代には、リカのキャラクター以外にも驚くようなアイテムがいろいろあるだろうななどと思い、同時にメイクやファッションだけでなく、映像の質感やドラマの中の空気感にも懐かしさのようなものと野暮ったさを覚えて、それが今よりももっと居心地のよいものに感じられたのでした。
 浮ついた時代だったけれど、世の中にはデジタルよりアナログの感覚が強く、もっとデコボコ、ザラザラして、いびつだった気がします。それはつまり、現代よりも人間らしかったということかも知れません。今ほどいろいろな場面に人工的な修正が入り込んでいなかったし。
 さて、ドラマを観ていて、物語以上に心に残ったのは、日向敏文さんによる音楽でした。クラシックっぽかったり、映画音楽のようであったりしながら、聴き手のイマジネーションを豊かに刺激する彼の作品ですが、ドラマのサウンド・トラックという性格のためでしょう、『東京ラブ・ストーリー』は彼のアルバムの中でも一番親しみやすい内容になっていると思います。センチメンタルを主としたいろいろな感情や、それらに彩られたシーンをそのまま音楽にしたような曲は、どれもが美しくて、ドラマが懐かしさを感じさせたのとは違って、いつ聴いても変わらない感動を運んでくれます。

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 ちなみに一番好きなアルバムは最初にリリースされた『サラの犯罪』。1曲目の「サラズ・クライム」を初めて聴いた時の衝撃は今も忘れませんし、この曲が様々な感動を与えてくれる、大切な作品であることはこれからも変わらないと思います。
 日向敏文という人が素晴らしい才能や感性の持ち主であることは間違いありませんが、2009年を最後に新しい作品は発表されておらず、近況もわかりません。その新作が聴けることを待ちたいと思います。