歌謡亭日乗

或る音楽ライターの仕事と日常

「会津追分」で飛躍する森山愛子さんへの期待

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  先日の「紅白」出場決定の報せを以て、純烈は確実にスターへの階段を昇り始めたと言えるでしょう。
 昨日のブログで、「紅白」出場までに8年を要したと書きましたが、いわゆるブレイクまでにどれくらい掛かるかは人それぞれと言うしかなく、そこには何か法則がありそうでいて、実は運次第というのが現実だと思います。
 氷川きよしさんのように、演歌が売れない時代にデビューしながら、その年に初出場してしまったシンデレラ・ボーイとでも呼ぶべき存在もあれば、デビューから「紅白」まで23年かかった、天童よしみさん、市川由紀乃さんの例もあります。

 例えば歌手の売り出し方は、初めて扱う食材を、どんな方法や味付けが最適であるかを探りながら調理するようなもので、参考例はあっても正解は新たに見つけるしかないので大変です。

 森山愛子さんは2004年にプロ歌手活動を開始。当初から高い歌唱力で注目されていましたが、なかなか期待に応えうる実績を上げられずにいました。
 森山さん本人は演歌が好きで、歌の師匠である作曲家の水森英夫さんも演歌で大成してほしいと願っていましたが、なかなか最高の料理に仕上げる方法が見つかりません。
 和食から韓国料理、洋食へと料理の幅を拡げるように、近年は歌の幅を拡げ模索していましたが、デビューから14年、年齢も三十路を過ぎて大人の心情を無理なく表現できるようになった昨年9月に発売されたのが、和食中の和食と言える「会津追分」でした。
 タイトルからわかるように会津を舞台にした、いわゆるご当地ソングで、この手の歌のほとんどと同様に、失恋してひとり、傷心を抱えて旅する女性の心情を歌っています。
 形式としては新しいとか珍しいとかいった点は全くありません。
 しかし、先の料理の例えを使えば、熟成加減や調理法、味付けが見事に食材に合っています。
 そしてそれはさらに、以前に口にしたことがあるはずの料理なのに、今までに食べたことがないような味わいだったのです。

 抜群の歌唱力を持ちながら、森山さんに唯一足りないと思っていた艶がこの歌には感じられ、それが説得力や共感を呼ぶ材料につながったのでしょう。発売年である2017年度上半期のDAM演歌カラオケランキングでは18位という高位を記録しています。
 1位が「津軽海峡・冬景色」、2位が「天城越え」で、3位が「酒よ」であるように、これは過去の作品もすべて含めたランキングで、昨年以降に発売された曲に限れば、大月みやこさんの「流氷の宿」に次ぐ2位ですので大変な躍進と言えます。
 CDの売り上げデータを見ても、過去最高を記録しており、いよいよその真価を世に問う時がやってきたと思えるのです。

 以前から、屈託がなく思いやりのあるとてもいい人ですが、屈託のなさが、人生の陰影や機微を表現する時には弱点だったのかも知れません。それが年齢を重ねて、晴れも雨も知り、日向だけでなく日陰をわかったことで「会津追分」が生まれたように思います。
 そうだとすれば、次作への期待は増すばかり。そして、それに応えるだけの歌唱力は備えていた人ですから、これからの活躍を楽しみにするばかりです。

 

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森山愛子 - UNIVERSAL MUSIC JAPAN